近年、東南アジア全体がEC市場の急拡大を迎えていますが、中でもフィリピンはスマートフォン普及率の上昇やSNS文化の根強さなどを背景に、モバイルECが爆発的に成長を遂げている国のひとつです。本記事では、フィリピンEC市場の急成長要因とモバイルEC特有の特徴、さらには参入チャンスと成功へのアプローチを解説します。日本企業が新興市場としてフィリピンを検討する際の参考になれば幸いです。
フィリピンEC市場の急成長、その背景とは？
フィリピンは約1億人の人口を抱え、若年層が多い国としても知られています。急速に進むデジタル化と都市化、そして新型コロナウイルス（COVID-19）の影響が重なり合って、EC市場が拡大しています。ここでは主な背景を3つに分けて見ていきましょう。
スマートフォン普及と若年層の購買行動
フィリピンの若年層はSNSや動画配信プラットフォームを日常的に利用しており、スマートフォンが生活の中心デバイスとなっています。家族や友人とのコミュニケーションだけでなく、商品情報の検索や買い物もスマホ経由で行うケースが大半です。特に経済成長に伴う所得向上で、オンラインショッピングに対する抵抗感も薄れています。
物流・決済インフラの改善とEC推進政策
以前は物流網やオンライン決済の普及率が課題でしたが、近年はクレジットカードやモバイル決済、電子ウォレットなどの決済手段が広まり始め、政府や民間企業もEC推進に力を入れています。主要都市ではデリバリーサービスが充実し、地方都市でも宅配が可能な地域が増えています。
COVID-19によるオンライン購買習慣の定着
新型コロナウイルスのパンデミックにより、外出制限やリモートワークなどが進んだ結果、オンラインショッピングの需要が一気に高まりました。食品や日用品からデジタルサービスに至るまで、EC利用が日常化したことで、この流れはアフターコロナでも定着すると見られています。
フィリピンにおけるモバイルECの特異性
フィリピンのEC市場を語るうえで見逃せないのが、「モバイルECが主流」という点です。PCを持たない層も多い中、スマホが主要ツールとなっているため、UX（ユーザー体験）設計が他国と異なる特徴を持っています。
ECの主戦場は「スマホ」：PC中心とは異なるUX設計が求められる
欧米や日本では、依然としてPCでのオンラインショッピングも根強いですが、フィリピンではユーザーが最初から最後までスマホで完結させるケースが大半。画面サイズや操作性を考慮したシンプルなUI、読み込みスピードの最適化が求められます。
アプリ（Shopee・Lazada・TikTok Shop）経由の購入が多数
フィリピンのユーザーはブラウザではなく、ショッピングアプリやSNSアプリから直接商品を探すことが一般的です。ShopeeやLazadaはもちろん、最近ではTikTok Shopも急成長しており、ショート動画で商品を紹介してそのまま購入まで誘導するケースが増えています。
チャット・ライブ配信・レビュー文化が購買に直結
東南アジア圏では、購入前にチャットで問い合わせをする文化が根強く、ライブ配信で商品を実演販売する手法も浸透しています。フィリピンも例外ではなく、こうした双方向コミュニケーションが購買率を高める大きな要素となっています。レビューの良し悪しが売上に直結する点にも注目が必要です。
今、注目される3つの市場セグメント
幅広い消費ニーズがあるフィリピンですが、特にモバイルECで勢いを増しているカテゴリがあります。ここでは、今後も成長が期待できる3つのセグメントを紹介します。
① 美容・コスメ：レビューと価格訴求がカギ
韓国コスメや日本のスキンケア商品などが人気を博しており、SNSでのビフォーアフター写真やインフルエンサーによるレビューが購買を後押ししています。低価格帯の商品も多く、新商品のサイクルが早いため、定期的にプロモーションを実施してリピートを狙う戦略が効果的です。
② 家庭用品・子育て関連：日用品ニーズの拡大
都市化による生活スタイルの変化や共働き世帯の増加に伴い、家庭用品や育児グッズのオンライン購買が増えています。おむつやミルクなどの定期購入に加え、収納グッズや調理器具などの時短アイテムが人気を集めています。
③ デジタルガジェット・スマホアクセ：Z世代・ミレニアルに人気
若年層にとってスマートフォンは生活必需品であり、アクセサリーや周辺機器へのニーズが高いです。ヘッドホンやワイヤレスイヤホン、スマホケース、ゲーム関連デバイスなど、多彩なガジェットがオンラインで売れ筋商品となっています。
参入時に押さえるべき3つの課題
一方、フィリピン市場に参入する際に注意したいポイントも存在します。ローカル特有の課題に対処しないと、せっかくのビジネスチャンスを逃す可能性があります。
物流コストとラストマイル配送の品質
フィリピンは多くの島々からなる国であり、地方への配送が難しい地域も少なくありません。配送料金やラストマイル配送の品質が悪いと、顧客満足度を下げるリスクがあります。信頼できるローカル物流パートナーの選定が不可欠です。
現地言語（英語＆タガログ語）と顧客対応
フィリピンでは英語が広く使われていますが、タガログ語がメインとなる地域も多いです。顧客対応や商品ページの翻訳を英語だけで済ませると、ローカルユーザーにアピールし切れない可能性があります。実務上、タガログ語も適切にサポートできる体制を整えたいところです。
価格競争に巻き込まれないブランディング
海外ブランドや現地ブランドとの価格競争が激化しており、単純に安値勝負をすると利益率が確保できないリスクが高いです。独自のブランドストーリーや品質保証など、価格以外の差別化ポイントを打ち出すブランディング戦略が重要です。
日系企業が参入する際の成功アプローチ
こうした課題を踏まえつつ、フィリピン市場で成功している日系企業も多く存在します。彼らが用いるアプローチを参考にすることで、スムーズな市場参入を目指せるでしょう。
現地インフルエンサーとの連携でローカル認知を獲得
先述の通り、SNSやライブ配信が普及しているフィリピンでは、ローカルインフルエンサー（KOL）を活用して商品を紹介してもらう手法が効果的です。日本ブランドならではの品質やデザインを、現地ユーザーに「身近な存在」が紹介することで、信頼感と認知度を一気に高めることが可能です。
バウチャー／プロモーション／レビュー施策の設計
価格が安いことは魅力ですが、ただの安売り競争に巻き込まれないために、バウチャーやプロモコードを上手に活用しましょう。購入したユーザーにはレビュー依頼を徹底し、好評が集まればECプラットフォーム内の検索ランキングで優位に立てる場合があります。
越境ECスタート→現地物流移行の“段階的参入”も有効
最初は日本からの越境ECとして出荷を行い、市場の反応や売れ筋商品をリサーチ。ある程度の売上規模や顧客データが揃った段階で、現地倉庫や物流拠点を構築して配送スピードを上げ、満足度をさらに向上するという段階的なアプローチも成功事例としてよく見られます。
まとめ｜フィリピン市場は“今から備える”べき成長エリア
東南アジアの中でも経済成長が著しく、人口構成が若いフィリピンは、モバイルECを中心に大きなポテンシャルを秘めています。しかし、多くの海外ブランドが参入を始めると、競争は一層激化するでしょう。早めに情報を収集し、文化や物流体制を理解した上で参入する企業が有利なポジションを築く可能性が高いです。
モバイルEC＝先行者が圧倒的に有利
スマートフォン中心の市場では、ユーザーは一度慣れ親しんだアプリやブランドを継続的に利用する傾向が強いです。先行してフィリピンでの知名度を上げれば、後発の競合と比べて大きなアドバンテージを得られるでしょう。
文化理解×スマホ最適化×ローカル対応でチャンス拡大
最終的には、フィリピンの文化や言語を尊重し、スマホユーザーに合わせたUI/UXを構築し、現地の物流や顧客サポートをしっかり整えることが成功への道です。今後もEC市場の成長が続くフィリピンにおいて、早めに準備を進めておけば、将来的に大きなリターンが期待できるでしょう。
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